概要
東京都と大阪市を超電導磁気浮上式鉄道(超電導リニア)で結ぶ新幹線鉄道の建設線。「中央リニア新幹線」「リニア中央新幹線」「リニア中央エクスプレス」などと呼ばれることが多い。
1964年10月1日に開業した東海道新幹線の成功をきっかけに、新幹線を始めとした高速交通ネットワークの整備を図ろうとの気運が高まり、1969年5月30日に策定された新全国総合開発計画では、東京~甲府間高速鉄道と第2東海道新幹線鉄道の建設などが盛り込まれた。これが中央新幹線の原型となり、全国新幹線鉄道整備法(全幹法)に基づき東京都~大阪市間を結ぶ中央新幹線の基本計画が1973年11月に決定。翌1974年7月には、甲府市付近~名古屋市付近間の山岳トンネル部の地形地質調査が日本国有鉄道(国鉄)に指示された。
1978年10月に調査の中間報告が行われ、甲府市付近から名古屋市付近までのルートとして、中央本線とほぼ同じルートとなるAルート(木曽谷ルート:甲府~茅野~木曽福島~名古屋)、Aルートの茅野以遠を飯田線とほぼ同じルートに変更し、飯田付近から木曽山脈を越えて名古屋方面に向かうBルート(伊那谷ルート:甲府~茅野~伊那~飯田~名古屋)、甲府からほぼ直進して南アルプス山脈と木曽山脈を抜けるCルート(南アルプスルート:甲府~飯田~名古屋)の3案が示された。その後、1987年3月に正式な調査報告が提出されたが、この間の国鉄の経営悪化などにより具体的な計画立案には至らなかった。
一方、国鉄では第2東海道新幹線鉄道を超電導リニアで整備する構想を持っていたが、1980年代には中央新幹線と第2東海道新幹線の構想を一本化し、中央新幹線を超電導リニアの路線として建設する構想が浮上。1987年4月1日の国鉄分割民営化によって発足した東海旅客鉄道(JR東海)も、東海道新幹線の輸送力が限界に達しつつあること、また施設の老朽化が著しく、将来において大規模な改修が必要になるとの危惧から、超電導リニアによる中央新幹線の整備を構想するようになった。
運輸大臣は1987年11月、甲府市付近~名古屋市付近間の山岳トンネル部の地形地質調査を日本鉄道建設公団(鉄道公団、現・鉄道建設・運輸施設整備支援機構)に指示し、続いて1990年2月には東京都~大阪市全区間の地形地質調査を鉄道公団とJR東海に指示した。ちなみにこの頃、中央新幹線の営業主体をJR東海とすることが確認されたといわれている。 また、超電導リニアの新実験線(山梨リニア実験線)が中央新幹線のルート上にあたる境川村(現・笛吹市)~秋山村(現・上野原市)間42.8kmに計画され、このうち大月市~都留市間18.4kmを先行区間として建設し、1997年4月から実験走行を開始した。
約10年にわたる先行区間での走行実験により技術上の目途がほぼ付いたことから、2007年4月にJR東海が今後の方針を表明。笛吹市~上野原市間の実験線全体区間(2013年度完成予定)での実用化確認試験を踏まえたうえで、2025年の首都圏~中京圏間先行開業を目指すとした。続いて2007年12月には、首都圏~中京圏間を南アルプスルート、かつ全額自己負担で建設する方針を表明。2008年10月20日には中京圏~関西圏間も自己負担で建設する意向を表明し、2009年10月13日に2045年の全線開業を想定した東京都~大阪市間の試算データを公表した。
鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)とJR東海は、2008年10月22日に地形地質調査の報告書を国土交通大臣に提出し、すべての調査範囲において路線の建設が可能とした。これを受けて国土交通大臣は同年12月24日、残る供給輸送力や建設費、車両や施設の技術などに関する調査を鉄道・運輸機構とJR東海に指示し、両者は2009年12月24日に調査報告書を提出。これにより全幹幹に基づく調査がすべて完了し、国土交通大臣は建設主体と営業主体の指名、整備計画の決定について、2010年2月24日に交通政策審議会に諮問した。
この間、南アルプスルートでの建設を目指すJR東海と、伊那谷ルートでの建設を求める長野県の対立があったものの、最終的には長野県も南アルプスルートでの建設を事実上容認する格好となり、交通政策審議会も南アルプスルートによる整備計画を2011年5月11日に答申した。これを受けて国土交通大臣は2011年5月26日に整備計画を決定し、翌27日にはJR東海に対して建設を指示した。
現在は環境影響評価の手続きが進められており、先行開業区間となる東京都~名古屋市間は2014~2015年頃の着工が見込まれている。ただし2010年4月28日には景気悪化の影響で資金計画を見直したことにより、開業目標時期を当初目標より2年遅れの2027年に変更している。一方、資金の早期回収や運営ノウハウの蓄積、リニア技術の海外展開などを理由に、完成した部分から先に開業させる考えも浮上しており、山梨リニア実験線の転用部を含む神奈川県~山梨県間が先行して開業する可能性も浮上している。
ルートは東京都から西進して山梨リニア実験線の東端に接続し、実験線を中央新幹線の路盤施設に転用。実験線西端から名古屋市付近までは前述の通り南アルプスルートが考えられている。名古屋市付近からは関西本線にほぼ並行して奈良市付近に入り、ここから大阪市に直進するルートが考えられている。なお、首都圏や中京圏、大阪圏では大深度地下に線路を敷設することが想定されている。
首都圏のターミナルは新宿駅に設置することが1970年代に考えられ、1980年代末期には汐留貨物駅の跡地を活用することも考えられた。最近では品川駅に設置する方向で最終調整に入っているといわれている。また、中京圏ターミナルは名古屋駅、関西圏ターミナルは新大阪駅に併設される可能性が高いといわれている。
これ以外の中間駅は、JR東海が「1県1駅」「建設費は地元負担」とする方針を示しており、候補地として神奈川県相模原市付近、山梨県甲府市付近、長野県飯田市付近、岐阜県東濃地区、三重県亀山市付近、奈良県奈良市付近などが浮上している。JR東海は既存の公共交通機関との接続を重視して設置場所を決める意向を持っており、中央線や身延線、飯田線、関西線など、在来線との交差部に中間駅が設置される可能性が高い。神奈川県内駅、奈良県内駅は地下方式での建設が想定されている。
列車の最高速度は設計505km/h、営業500km/hで、東京都~大阪市間の最短所要時間は67分。1日の運転本数は上下合わせて260本とし、片道1時間当たりでは最大8本が想定されている。
※山梨リニア実験線
国鉄では1962年から次世代高速鉄道としてリニアモーター推進浮上式鉄道の基礎研究に着手した。1977年には超電導リニアの実験線を宮崎県内(日豊本線美々津~都農間の線路に並行する7.0kmの区間)に設置して走行実験が本格化。1987年4月の国鉄分割民営化では、鉄道技術総合研究所(鉄道総研)に実験業務が引き継がれている。
しかし、宮崎実験線は平坦な高架単線のためトンネルや勾配、高速運転列車同士のすれ違いなど各種条件下での実験が難しいこと、また距離が短いため長期耐久試験が難しいことなどから、運輸省は1988年から新実験線の整備の検討に着手。北海道の札幌~千歳間や山梨県への移転、宮崎実験線の拡張などが候補に挙がったが、最終的には中央新幹線の路盤施設に転用が可能な山梨県への実験線移転が決定した。
その後、鉄道総研とJR東海、鉄道公団の3者は1990年6月、運輸大臣通達「超電導磁気浮上式鉄道に係わる技術開発の円滑な推進について」に基づき、建設計画や技術開発基本計画の承認を受けて着工。境川村(現・笛吹市)~大月市~都留市~秋山村(現・上野原市)間42.8kmのうち大月市~都留市間18.4kmが先行区間として工事が進み、1996年12月から試運転などの総合調整試験を開始。翌1997年4月3日から本格的な走行実験を開始した。
残りの笛吹市~大月市間と都留市~上野原市間は建設費の問題などから本格的な着工のめどが立たなかったが、2007年1月に建設計画と技術開発基本計画の変更が認可され、現在は2013年度の全線完成を目指している。
データ
線名 | 中央新幹線 |
営業主体 | 東海旅客鉄道 |
建設主体 | 東海旅客鉄道 |
区間・駅 | 品川~名古屋~奈良市付近~大阪市 ※名古屋~大阪市間の詳細なルートは未定 |
距離 | 約438km |
軌間 | 超電導磁気浮上式 |
動力 | 電気 |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 2027年 |
備考 |
進ちょく状況
1973年11月15日 | 基本計画決定 |
1974年7月16日 | 甲府市付近~名古屋市付近間の山岳トンネル部、調査指示(日本国有鉄道) |
1987年3月 | 甲府市付近~名古屋市付近間の山岳トンネル部、調査報告(日本国有鉄道) |
1987年11月 | 甲府市付近~名古屋市付近間の山岳トンネル部、調査指示(日本鉄道建設公団) |
1990年2月6日 | 東京都~大阪市間、調査指示(東海旅客鉄道・日本鉄道建設公団) |
2008年10月22日 | 東京都~大阪市間、調査報告(東海旅客鉄道、鉄道建設・運輸施設整備支援機構) |
2008年12月24日 | 東京都~大阪市間、調査指示(東海旅客鉄道、鉄道建設・運輸施設整備支援機構) |
2009年12月24日 | 東京都~大阪市間、調査報告(東海旅客鉄道、鉄道建設・運輸施設整備支援機構) |
2011年5月26日 | 整備計画決定(※建設指示は2011年5月27日) |