羽田空港アクセス線

概要

羽田空港アクセス線は、東京都心と東京国際空港(羽田空港)を結ぶ、東日本旅客鉄道(JR東日本)の鉄道計画。現在構想されている3ルートのうち、東京駅方面と羽田空港を結ぶ「東山手ルート」を先行整備する方向で進められており、早ければ2029年にも同ルートが開業する見込み。

羽田空港アクセス線の路線図。東京駅方面からの東山手ルート(オレンジ)と臨海副都心方面からの臨海部ルート(紫)、新宿方面からの西山手ルート(緑)が東京貨物ターミナルで合流し、羽田空港まで新線を整備する。赤点線の部分は線路の新増設が必要な部分。【作成:運営部(K)/『カシミール3D 地理院地図+スーパー地形』を使用】

東山手ルートは、浜松町~東京貨物ターミナル間を結ぶ休止中の貨物線(東海道本線の貨物支線=大汐線)を活用。田町駅付近に東海道線と大汐線の線路を接続するための短絡線を新設する。大汐線は既設の高架橋や線路を改修し、東京貨物ターミナル駅内には車両基地や保守基地を設ける。

東京貨物ターミナル駅から先は、地下トンネルの新線を整備して羽田空港の敷地内へ。国内線の第1ターミナルと第2ターミナルのあいだ(京急空港線の羽田空港国内線ターミナル駅付近)に羽田空港新駅(仮称)を設ける。ほぼ全線が複線の計画だが、短絡線の地下トンネル部分は単線にすることが考えられている。また、将来的には羽田空港新駅から現在の国際線ターミナルまで延伸することも考えられている。

東山手ルートが整備された場合、東海道線の東京駅方面から羽田空港に直通する旅客列車を運行できるようになる。所要時間は東京駅~羽田空港間で約18分とされており、現在の東京モノレール羽田空港線経由(浜松町乗り換え)や京急空港線経由(品川乗り換え)に比べ10~15分程度は短縮されるとみられる。列車は15両編成で、運転本数は1日あたり144本、1時間あたり8本と計画されている。

東海道線と宇都宮線・高崎線・常磐線を直通する上野東京ラインを活用し、茨城・栃木・埼玉・群馬の関東北部エリアから羽田空港に直通する列車の運行も想定される。2016年4月に策定された交通政策審議会答申第198号(交政審198号答申)では、東武線方面から羽田空港への直通についても言及しており、東武日光~羽田空港間を結ぶ直通特急の運行などが考えられる。

このほか、臨海副都心方面から羽田空港に直通する「臨海部ルート」と、新宿方面と羽田空港を結ぶ「西山手ルート」の構想がある。臨海部ルートは、新木場駅から東京臨海高速鉄道りんかい線と同線の車両基地回送線を活用。車両基地の近くに東京貨物ターミナル駅があり、ここからは東山手ルートと同じ地下トンネルの新線で羽田空港に向かう。

単線の回送線を複線化する計画だが、回送線が通る地下トンネルは複線分のスペースがあり、トンネルの拡張や増設は必要ない。所要時間は新木場~羽田空港間で約20分と見込まれており、現在のりんかい線~東京モノレール経由(天王洲アイル乗り換え)に比べ所要時間がほぼ半分になる見込みだ。また、りんかい線と線路がつながっている京葉線から羽田空港に直通する列車の運行も可能になる。

西山手ルートは、新宿方面から大崎駅まで埼京線や湘南新宿ラインが走る貨物線(山手貨物線)を走り、大崎駅からりんかい線に乗り入れ。大井町駅からは東京貨物ターミナルに延びる短絡線を整備する。新宿~羽田空港間がいまより18~23分短い約23分で結ばれる。埼京線や湘南新宿ラインの列車を羽田空港に乗り入れさせることが可能になるため、埼玉方面と羽田空港を結ぶ列車の運行も考えられる。

3ルートすべてあわせた総事業費は約3400億円とされている。

経緯

大汐線を含む汐留~東京貨物ターミナル~塩浜操間の貨物線は、1973年10月に開業した。しかし、国鉄の経営悪化や鉄道貨物輸送の衰退、貨物輸送方式の変更などの影響で、1986年11月には汐留貨物駅が廃止。浜松町~東京貨物ターミナル間は定期列車の運行がなくなった。

1987年4月の分割民営化時には、将来の旅客化の可能性を考慮してJR東日本が貨物線の線路施設を引き継ぎ、日本貨物鉄道(JR貨物)がJR東日本から線路を借りて貨物列車を運行する形になったが、実際には臨時列車しか運行されなかった。1998年1月には都営大江戸線の工事のため大汐線が正式に休止。都営大江戸線の開業後も休止が続いている。

2000年1月には、運輸大臣の諮問機関だった運輸政策審議会が東京圏の鉄道整備基本計画(運政審18号答申)を策定。東京テレポート~東京貨物ターミナル~羽田空港間の「羽田アクセス新線」を盛り込んだが、その位置づけは「今後整備について検討すべき路線」とされ、整備の目標時期などは示されなかった。

膨大な建設費がかかることから、その後も具体化に向けた動きはほとんどみられなかったが、東京オリンピック・パラリンピックの2020年開催が決まった2013年、JR東日本は従来の羽田空港アクセス新線構想に、大汐線の活用を含むふたつのルートを加えた羽田空港アクセス線の整備を検討していることを明らかにした。

JR東日本はオリンピックの開催に間に合わせるため、暫定的な整備も想定。短絡線などの建設が不要な臨海部ルートのみ先行整備し、東京貨物ターミナル以南の新線は羽田空港国内線ターミナルの少し手前の「暫定駅」まで建設(空港ターミナルまではバス連絡)することが考えられた。しかし、工期が不足していることから暫定整備は2015年までに断念された。

一方、運政審18号答申は目標年次を2015年としていたことから、同答申の「期限切れ」を控えていた2014年には、国土交通大臣が東京圏の鉄道ネットワークのあり方について検討するよう、諮問機関の交通政策審議会に諮問。2016年4月に交政審198号答申が策定され、羽田空港アクセス線の新設が盛り込まれた。

JR東日本は2018年7月に発表したグループ経営ビジョンで羽田空港アクセス線構想の推進を盛り込み、2019年から東山手ルートの環境影響評価の手続きに入っている。

データ

区間 田町駅付近・大井町駅付近・東京テレポート~東京貨物ターミナル付近~羽田空港
距離田町駅付近~東京貨物ターミナル付近:約7.4km
東京テレポート~東京貨物ターミナル付近:約6km
大井町駅付近~東京貨物ターミナル付近:約4km
東京貨物ターミナル付近~羽田空港新駅(仮称):約5.0km