上瀬谷ライン

上瀬谷ラインは、横浜市が構想している新線。瀬谷区にある米軍の通信施設跡地(旧上瀬谷通信施設地区)の再開発により創出される交通需要に対応する。2022年度の着工、2026年度末(2027年春)の開業が予定されている。

上瀬谷ラインの終点・上瀬谷駅の予定地近くにある海軍道路の上瀬谷小学校東側交差点。【撮影:2020年4月21日、草町義和】

概要

環境影響評価方法書によると、相模鉄道(相鉄)本線の瀬谷駅付近から環状4号線(上瀬谷線、いわゆる「海軍道路」)に沿って北上し、旧上瀬谷通信施設地区に至る。全体の距離は約2.6km。

軌道システムは自動案内軌条式旅客輸送システム(新交通システム、AGT)を採用。同じ横浜市内に建設された金沢シーサイドラインで採用されているシステムで、運転士と車掌が乗務しないゴムタイヤの車両が専用の軌道を自動運転する方式になるとみられる。

軌道は上下各1線の複線。起点の瀬谷駅(仮称)は相鉄本線の瀬谷駅付近(北西側)地下に設置される。方法書に収録されている横断面図を見る限り、ホームと線路は2面1線の構造で駅構内は単線だが、柱の位置から2面3線に変更することも想定されているとみられる。

ここから海軍道路に沿って、地下を約1.9km北上。トンネルは円形トンネルとされているが、横断面図では楕円(だえん)形になっていることから、東京地下鉄(東京メトロ)副都心線で採用された、複合円形シードルマシンを用いたシールド工法で建設されると思われる。

瀬谷駅/相鉄本線の瀬谷駅ホーム。写真右奥の地下に上瀬谷ラインの瀬谷駅が設けられるとみられる。【撮影:2020年4月21日、草町義和】
瀬谷~上瀬谷/瀬谷駅から約1.9kmは海軍道路の地下を北上する。【撮影:2020年4月21日、草町義和】
瀬谷~上瀬谷/地下から地上に移る地点の近く。写真左側に海軍道路の車線、右側に旧上瀬谷通信施設地区が広がっている。【撮影:2020年4月21日、草町義和】

その先の残り約0.7kmは地表に軌道を敷設。上瀬谷小学校東側交差点付近に、営業上の終点となる上瀬谷駅(仮称)を、2面3線の構造で設ける。

上瀬谷駅の東側には旧上瀬谷通信施設地区が広がっており、ここで国際園芸博覧会(花博)が2027年に開催される予定。花博の閉幕後は大規模テーマパークを誘致して整備する方針が固まっている。

上瀬谷駅の先も軌道を地表式で約400m整備し、軌道の終端部に上瀬谷車両基地(仮称)を設ける。同基地の面積は約5.1haで、海軍道路東側に広がる旧上瀬谷通信施設地区内に整備される。

瀬谷~上瀬谷/旧上瀬谷通信施設地区は空き地のまま。ここで花博を開催し、閉幕後は大規模テーマパークが整備される構想だ。【撮影:2020年4月21日、草町義和】
上瀬谷駅の予定地付近からから北へ約400m進んだところ。写真右側が旧上瀬谷通信施設地区で、上瀬谷車両基地が設けられる。左側の道路をそのまま進むと若葉台や長津田、十日市場方面へ向かう。【撮影:2020年4月21日、草町義和】

車両は最大8両編成を想定。各車両の長さは先頭車が8.55m、中間車が8.5mで、これは東京都の第三セクター・ゆりかもめが運営している東京臨海新交通臨海線(新交通ゆりかもめ)の7300系や7500系と同じサイズになっている。設計最高速度は60km/h。

運転本数は、朝方ラッシュ1時間あたりで上下線最大36本。終日1日あたりでは上下線で最大414本を想定している。沿線の通勤輸送のほか、開業当初は花博のアクセス輸送に対応し、その後はテーマパークへのアクセス輸送が中心になるとみられる。

上瀬谷駅からさらに北西方向に進み、若葉台団地やJR横浜線・東急電鉄田園都市線の長津田駅、JR横浜線の十日市場駅の方面に延伸する構想もある。方法書による計画では、路線規模の割に複線で1編成の車両編成が8両と長く、車両基地の面積は全長14.7kmの新交通ゆりかもめの車両基地(約5.6ha)に匹敵することから、将来の延伸に対応した構造で建設されるとみられる。

上瀬谷ライン(赤)の路線図。【作成:運営部(K)/『カシミール3D 地理院地図+スーパー地形』を使用】

経緯

上瀬谷にはかつて旧日本海軍の倉庫施設があり、現在の相鉄本線・瀬谷駅と倉庫施設を結ぶ軍用線も整備された。終戦後は米軍が倉庫施設を接収して通信施設を整備。軍用線は道路に改築されて海軍道路に変わった。

1950年代には、相鉄が原町田(現在のJR横浜線・町田駅付近)~二俣川~杉田海岸(現在のJR根岸線・磯子駅付近)間を結ぶ鉄道新線の整備を計画。通信施設の東側を通り抜けるルートで1958年に地方鉄道免許を申請した。

しかし、日米合同委員会は1960年、通信施設とその周辺を電波障害防止制限地域に指定。このため相鉄の新線も建設が難しくなり、相鉄は1967年に新線の地方鉄道免許申請を取り下げた。

その後、通信施設内の重要な施設は別の場所に順次移転。2004年には日米合同委員会で通信施設を日本に返還することが確認され、2015年に土地を含む施設全体が返還された。これを機に横浜市は旧上瀬谷通信施設地区の再開発を構想し、同地区へのアクセス交通機関を整備することも考えられるようになった。

これに先立つ2014年、国土交通大臣が交通政策審議会(交政審)に対し、東京圏の今後の鉄道のあり方について考えをまとめるよう諮問。圏内各地の鉄道構想の検討が進められたことから、横浜市は2016年1月、上瀬谷通信施設跡地の利用についても意見を盛り込むよう要望した。

同年4月の交政審の答申(交政審198号答申)では、上瀬谷の軌道系交通システムのルートなどを定めて盛り込むことはなかったが、「例えば上瀬谷通信施設跡地の開発等に対応する新たな交通については、関係地方公共団体・鉄道事業者等において、LRT等の中量軌道等の導入について検討が行われることを期待」するとし、整備に際してはBRTを導入してから将来的に中量軌道に移行するといった段階的整備も視野に入れるべきとした。

2019年には、国際園芸博覧会(花博)を旧上瀬谷通信施設地区に誘致することが決定。同年6月に神奈川県や横浜市の関係団体などで構成される誘致推進協議会が発足し、9月に立候補が承認された。2027年の花博はほかに立候補している都市がないことから、上瀬谷で2027年3~9月頃に開催されることが事実上決定しており、これに伴い上瀬谷ラインを早期に整備する方向が固まった。

2019年12月、横浜市は旧上瀬谷通信施設地区の土地利用基本計画の素案を作成。環境影響評価手続きも始まり、2020年1月に計画段階配慮書、同年7月に方法書を公表した。

このあいだに、軌道の整備方式や導入機種の検討も進んだ。軌道の整備は高架式と地表式、地下式を組み合わせた4案を検討した結果、地下式(円形トンネル)を中心に整備し、上瀬谷駅とその前後は地表式を採用する案を採用。導入機種は軽量軌道交通(LRT)や、都市モノレール法に基づくモノレール、AGTなどを比較検討した結果、金沢シーサイドラインでの技術的な経験を生かせるAGTの採用が決まった。

上瀬谷ラインでの採用が決まったAGTを導入した金沢シーサイドライン。【撮影:2014年2月12日、草町義和】

今後は2020年度中に環境影響評価手続きを進めつつ、軌道法に基づく軌道の特許の申請。2021年度は特許を取得して工事施行認可の申請・取得や用地買収を実施し、2022年度から工事に着手する予定。花博の開催に間に合わせるため2026年度末の開業を目指す。

データ

線名上瀬谷ライン(仮称)
区間・駅瀬谷(仮称)(横浜市瀬谷区中央・本郷三丁目・瀬谷四丁目)
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上瀬谷(仮称)(横浜市瀬谷区瀬谷町)
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上瀬谷車両基地(仮称)(横浜市瀬谷区瀬谷町)
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※若葉台・長津田・十日市場方面
距離約2.6km
種別軌道事業
種類案内軌条式
動力電気
単線・複線複線
開業予定時期2026年度末