広島電鉄の駅前大橋線は、同社が運営している広島市内の路面電車線のうち、広島駅への乗り入れルートを変更するために整備される新線。JR広島駅の新しい駅ビル内に停留場を設け、本線と比治山線に接続する新線を建設する。2025年春に開業する予定。
概要
起点の広島駅停留場は、広島駅南口側に設けられる新しい駅ビル(2020年4月着工、2025年春開業予定)の2階に新設。ここから駅前大橋の南詰までの約260mは高架橋を整備し、駅前大橋南詰以南は駅前通りの路面に軌道を敷設する併用軌道になる。
稲荷町交差点で本線の稲荷町停留場に接続。さらに南下して比治山町交差点で比治山線に接続し、比治山下方面に向かう。稲荷町交差点から比治山町交差点のあいだには、松川町停留場(仮称)が新設される。現在の広島駅乗り入れルートとなっている本線の広島駅~猿猴橋町~的場町間は、駅前大橋線の開業にあわせて廃止される予定。
駅前大橋線の開業に伴い運転系統も変わる。現在の広島駅停留場に乗り入れている系統はすべて、新しい広島駅停留場の発着に変更される見込み。これに伴い的場町停留場などを通る系統がなくなるため、的場町~比治山下~皆実町六丁目~広電前~紙屋町東~的場町間の循環ルートの系統を新設。的場町停留場は循環ルートをスイッチバックせずに運転できるよう軌道の改良が行われる。
整備後の所要時間は、広島駅~稲荷町間が2.5分(現在は6.5分)、広島駅~比治山下間が4.5分(現在は9分)。現在の広島駅への乗り入れルートより距離が短くなり、高架橋での駅への乗り入れによって道路渋滞の影響も受けにくくなるため、所要時間が短縮される。
JR線と広島電鉄の乗り継ぎも改善される。現在の広島駅停留場はJR広島駅から少し離れており、移動距離(時間)140m(144秒)。駅前大橋線の広島駅停留場は駅ビル内に整備されることから、移動距離は78m(70秒)に短縮され、所要時間もほぼ半分の70秒になる。
総事業費は109億円。このうち道路などの公共施設として整備される部分(インフラ部)は約83億円で、国と自治体の負担が想定されている。残りの約26億円は、架線などインフラ部以外の部分(インフラ外部)になり、国と自治体がそれぞれ6分の1を負担し、残りの3分の2は広島電鉄の負担とすることが想定されている。
経緯
広島市の中心部では古くから広島電鉄が運営する路面電車ネットワークが発達していたが、戦後の1960年代には地下鉄の整備や自動案内軌条式旅客輸送システム(AGT)などの新交通システムの導入なども検討されるようになった。
1994年8月20日、広島高速交通の広島新交通1号線(アストラムライン)・本通~広域公園前間がAGTの路線として開業して部分的に市内中心部に乗り入れたが、地下鉄やAGTは整備費用が巨額になることから、これ以上の整備は事実上断念されている。
アストラムラインが開業したころ、欧米では路面電車を発展させた軽量軌道交通(LRT)の整備が進み、日本でもLRT導入に向けての機運が高まった。広島電鉄は1997年、LRTの新設路線として平和大通り線などの整備を提案。1999年11月には広島市も、平和大通り線や駅前大橋線の整備を新しい公共交通の基本計画に盛り込んだ。
一方、広島電鉄の広島駅停留場は、ラッシュ時には車と信号による影響で路面電車が行列を作り同停留場に入れない状況になっており、広島駅停留場へのルートも迂回(うかい)ルートになっていて市内中心部からの所要時間が長いという課題を抱えていた。
こうしたことから、広島電鉄の構想路線のうち駅前大橋線が先行することになり、広島駅南口の新駅ビルと一体的に整備することに。広島市は2014年9月に基本方針を決定した。その後は基本方針に基づき準備が進められ、2020年11月に駅前大橋線の軌道事業が特許された。広島電鉄は2020年度中に工事施行の認可を受けて着工する方針だ。
データ(軌道事業特許区間)
事業者 | 広島電鉄 |
線名 | 駅前大橋線 |
区間・駅 | 広島駅(広島県広島市) | 稲荷町(広島県広島市) | 松川町(仮称、広島県広島市) | ※比治山町交差点(広島県広島市) ↓ 比治山下方面 |
距離 | 1.1km |
種別 | 軌道事業 |
種類 | 軌道 |
軌間 | 1435mm |
動力 | 電気 |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 2025年春 |
備考 |
進ちょく状況(軌道事業特許区間)
2019年4月24日 | 軌道事業特許申請 |
2019年10月17日 | 運輸審議会軽微事案認定 |
2019年11月29日 | 軌道事業特許 |