新京成電鉄の新型車両「80000形」完成 12月27日から営業運転

京成グループの新京成電鉄は12月9日、新京成線(千葉県)の新型車両「80000形」を報道陣に公開しました。12月21日に一般向けの試乗会が行われ、12月27日から営業運転が始まる予定です。

新京成電鉄の80000形(80016~80011)。【撮影:運営部(K)】

新京成線に新型車両が導入されるのは、2005年に登場した通勤形電車のN800形以来、14年ぶりです。今回公開されたのは、80000形の最初の編成として完成した6両編成1本(第80016編成)。編成両端の制御電動車2両と中間の電動車2両、付随車2両で構成されています。

「伝統」の鏡は引き続き設置

車体の塗装はピンクと白の2色。新京成は沿線価値向上策の一環として2014年から車体の塗装をピンクベースのデザインに変更、統一していますが、80000形もこの塗装を採用しています。N800形(デザイン変更後)と異なりピンクの帯を車体上部にも配しており、高架区間でもピンクの車体が見えるようにしています。

車体の上にもピンクの帯が入れられた。【撮影:運営部(K)】

車体そのものは、グループ中核企業の京成電鉄が10月に導入した通勤形電車の3100形(2代目)と同じタイプ。というより、京成3100形と新京成80000形は京成3000形に代わる京成グループの新しい標準車両として開発されたため、車体に限らず基本的な構造は同じ¥です。車内の設備も京成3100形とほぼ同じ。座席の背もたれは窓の底辺より高いハイバック形です。手すりは特殊な加工を施して、指紋や汚れを付きにくくしています。

するどい目つきのライトも京成3100形と同じ。【撮影:運営部(K)】

とはいえ、全く同じというわけでもありません。たとえば、VVVFインバーター制御装置やモーターのメーカーは、京成3100形が東洋電機製造なのに対し、新京成80000形は三菱電機。新京成の担当者によると、部品の供給ルートを複数確保することで競争原理を働かせてコストを抑えたり、納期が長くなるのを防ぐなどの狙いがあるといいます。

新京成電鉄80000形の主要諸元(※画像をクリックするとエクセルファイルをダウンロードできます)。【作成:運営部(K)/参考:新京成電鉄80000形パンフレット】

車内設備では、3100形に導入された座席を折りたたむタイプの荷物置き場が設置されていない一方、新京成の車両の「伝統」となっていた鏡(ステンレス製)が設置されています。車両間のドアなどにナシやブドウといった沿線の農産物が描かれているのも、新京成線ならではのアレンジといえるでしょうか。

車内もハイバックシートを採用するなど京成3100形と同じ部分が多いが、座席を折りたたむタイプの荷物置き場は設けられていない。【撮影:運営部(K)】
新京成車両の「伝統」と化している鏡は引き続き設置。【撮影:運営部(K)】
車両間のドアに描かれているナシやブドウ。【撮影:運営部(K)】

なお、新京成線の列車は京成千葉線に乗り入れており、80000形の運転台にも乗り入れのための切替スイッチが設置されているのが見えました。ただし、実際には乗り入れるための機器類を搭載しておらず、当面は新京成線内のみでの運転になります。新京成の担当者によると、将来的な京成線への乗り入れも検討していますが、その時期は決まっていないとのことです。

80000形の運転台。【撮影:運営部(K)】
新京成・京成の切替レバーはあるが、いまのところ京成線への乗り入れには対応していない。【撮影:運営部(K)】

グループ2社が「共同」で開発

日本の鉄道車両は現在、鉄道事業者の枠を越えた共通仕様の車両の導入が進んでいます。たとえば、相模鉄道(相鉄)の10000系はJR東日本が開発した普通列車用の電車のE231系をベースにしており、車体の塗装や先頭部のデザインなどを除けば、E231系とほとんど同じ仕様です。こうすることで、設計コストを抑えることができるなどのメリットがあります。

新京成電鉄のN800形も、京成電鉄が開発した3000形(2代目)を新京成線向けにカスタマイズした電車。塗装などは異なるものの、基本的な構造は京成3000形とほとんど変わりません。3000形ベースの車両はほかにも京成グループの北総鉄道7500形や、北総鉄道が管理する千葉ニュータウン鉄道9200形があり、京成3000形は京成グループの標準車両というわけです。

一方、今回完成した新京成の80000形は、80000形に先立ちデビューした京成3100形をベースに製造……したわけではありません。京成電鉄と新京成電鉄が3000形に代わる京成グループの新しい標準車両を「共同」で設計し、そのうえで両社がそれぞれ自社向けのアレンジを加え、京成は3100形を、新京成は80000形を製造したといえます。

新京成電鉄は、直流1500Vで電化された路線の長編成電車としては世界初のVVVFインバーター制御車となる8800形を1986年に導入しており、最先端の技術を積極的に導入するという「伝統」があります。それゆえ技術力も高く、新しい標準車両の開発に新京成を加えることで、グループ全体の車両の性能向上やサービス向上を目指したといえるかもしれません。

近年では、2017年に東京地下鉄(東京メトロ)日比谷線~東武鉄道伊勢崎線(東武スカイツリーライン)の相互直通運転用としてデビューした東京メトロ13000系と東武70000系も、設計の段階から仕様の共通化が図られています。今後は大手の車両メーカーや鉄道事業者が開発した標準車両を各社が採用するのではなく、複数のメーカーや鉄道事業者が共同で標準車両を開発するという流れが中心になるのかもしれません。

80000形(左)と並ぶ従来車両(右)。【撮影:運営部(K)】

今回製造された80000形の第80016編成は、老朽化した従来車両の置き換えを直接の目的としています。となると、新京成の通勤形電車で一番古い8000形の6両編成2本(第8512編成と第8518編成)のどちらか一方が廃車になりそうですが、新京成の担当者は「一番古い車両を(80000形の第80016編成で)置き換えるとは限らない」としており、8800形が廃車になる可能性もありそうです。