「センス」がある相鉄・JR直通線に乗ってみた 開業前の試運転列車を取材

11月30日から営業運転

神奈川東部方面線のうち、相鉄本線の西谷駅とJR東海道本線貨物支線(羽沢線)の横浜羽沢駅付近を結ぶ「相鉄・JR直通線」が11月30日に開業し、相鉄とJR東日本の相互直通運転が始まります。

相鉄本線の西谷駅に入線した試運転列車。行先表示器は「回送」だが新宿へ向かう。【撮影:2019年11月7日、運営部(K)】

現在は開業に向けて試運転が行われていますが、相鉄とJR東日本は11月7日、試運転の模様を報道陣に公開。未来鉄道データベースの運営部(K)も、相鉄の西谷駅からJRの新宿駅まで試運転列車に乗ってみました。

新宿方面に向かう試運転列車は11時12分、西谷駅の4番線に入線。車両は直通用に開発された12000系の10両編成です。行先表示装置には「回送」の文字が表示され、駅構内の案内放送も「この列車は回送列車です。ご乗車できません」と呼びかけていますが、未来鉄道データベース運営部(K)をはじめとする報道関係者は、先頭車のドアから乗り込みました。

ホームの床には「直通線方面」の案内が。 【撮影:2019年11月7日、運営部(K)】

開業前の新線を走る試運転列車に乗れたのですから、運転台の後ろに張り付いて先頭を見続けたいところですが、大勢の報道関係者が来たため、先頭の撮影はクジによる抽選が行われました。その結果、未来鉄道データベースは「48」番目……。時間は1社につき30秒でしたから、未来鉄道データベースが運転台に張り付けるのは24分後になってしまいました。

発車後すぐに西谷トンネルへ。 【撮影:2019年11月7日、運営部(K)】

列車は11時14分に発車。ホームを出るとすぐに西谷トンネルへ進入。しばらくして上り線と下り線の箱形トンネルが合流し、「SENS(センス)工法」で建設された部分へと入っていきます。

「センス」がある新線区間は2分で走破

センス工法は、端的にいえばシールド工法とニューオーストリア工法(ナトム)、場所打ちコンクリート(ECL)工法を混ぜ合わせたような工法といえます。

工事中だったころの西谷トンネル。センス工法で建設された。【撮影:2016年12月、草町義和】

山や地下に横穴を掘ると、そのままでは周囲の土や岩の圧力(地圧)によって押しつぶされてしまいます。そこで、トンネルを建設する場合は地圧で押しつぶされないよう、トンネルの壁面を構築しなければなりません。

シールド工法の場合、現在は円筒状の掘削機(シールドマシン)で掘り進みながら壁面を一時的に支え、シールドマシンの後方で「セグメント」と呼ばれるブロックを組み、壁面を構築します。一方、ナトムは掘削後すぐにコンクリートを壁面に吹き付け、さらにロックボルトを放射状に打ち込んで壁面を構築します。

センス工法は、現在のシールド工法と同様にシールドマシンを使って掘削しますが、壁面は場所打ちコンクリートによって構築。ナトムに比べると軟弱地盤に適用しやすく、その一方でコストはシールド工法より安くなるという利点があるそうです。

このセンス工法のトンネル、使用を開始しているものとしては東北新幹線の三本木原トンネルと北海道新幹線の津軽蓬田トンネルの2本だけ。11月30日には3本目となる西谷トンネルの使用が始まります。ちなみに4本目は、神奈川東部方面線の北側の区間になる相鉄・東急直通線の羽沢トンネルで、現在工事中。つまり4本あるSENSトンネルのうち半分が神奈川東部方面線にあるというわけです。

まあそんなわけで、未来鉄道データベースとしては「センス」のある西谷トンネルをじっくり見たかったわけですが、動いている列車内の窓からトンネルを見ても、暗闇が広がるだけです。

列車の窓からトンネルの壁を眺めても……何がなんだかさっぱり分からない。 【撮影:2019年11月7日、運営部(K)】

先頭ならトンネルの形状が分かる程度には見えるはずですが、クジで1番から4番を引いた報道関係者が張り付いていて、なかなか見られません。そうこうするうちに列車は西谷トンネルの端に位置する相鉄・JR直通線の終点・羽沢横浜国大駅に到着。西谷駅からの所要時間はわずか2分でした。

ひたすら貨物線を走って新宿へ

羽沢横浜国大駅では7分ほど停車。ここで相鉄の運転士からJR東日本に運転士に交代し、羽沢線へと入っていきます。

相鉄線とJR線の境界になる羽沢横浜国大駅。【撮影:2019年11月7日、運営部(K)】

駅の先で線路は相鉄・東急直通線(工事中)のトンネルと羽沢線に接続する急な上り勾配の線路の二手に分かれ、試運転列車は羽沢線に接続する線路のほうへ。急勾配を上っていくと、脇にはコンテナが多数置かれた横浜羽沢駅が見えてきました。

コンテナが置かれた横浜羽沢駅の脇から羽沢線に合流。【撮影:2019年11月7日、運営部(K)】

ここで羽沢線の線路に合流し、再びトンネルへ。しばらくすると、携帯電話の電波が途切れてしまいました。いままで旅客列車がほとんど走っていなかったため、通信環境の整備がされてこなかったのでしょう。

羽沢線のトンネルを進む。 【撮影:2019年11月7日、運営部(K)】

長いトンネルを抜けると、周囲は線路だらけ。京浜東北線の電車が脇に見えます。列車はいつのまにか鶴見駅を通過していましたが、そもそも鶴見駅は貨物線用のホームがないため通過するしかありません。続いて横須賀線や湘南新宿ラインなどの電車が走る東海道本線貨物支線(品鶴線)へと入っていきましたが、こちらも旅客ホームがない線路を走るため、途中の新川崎駅には停車しません。

その代わり、新川崎駅に隣接する新鶴見信号場(新鶴見機関区)には停車。JR貨物の電気機関車EH500形や、東京~大阪間で運転されている「スーパーレールカーゴ」こと貨物電車のM250系も停車していました。あまり見る機会のない車両が窓の外に見え、ちょっと興奮します。

新鶴見機関区(新鶴見信号場)ではJR貨物の電気機関車や貨物電車を見ることができた。 【撮影:2019年11月7日、運営部(K)】

新鶴見信号場の先で横須賀線や湘南新宿ラインの電車が走る線路に合流。途中通過した武蔵小杉駅では、ネイビーブルーで塗装された相鉄12000系が珍しいのか、ホーム上にいた客は「あれ? なにこれ?」という視線を向けてきます。

こうして試運転列車は品鶴線と山手線の貨物線(山手貨物線)を走って12時17分ごろ、新宿駅に到着しました。今回は試運転ダイヤということで西谷~新宿間は1時間以上かかっていますが、営業運転では最速で40分くらいになります。

山手線の電車と並行して走るようになれば、終点の新宿駅はもうすぐ。【撮影:2019年11月7日、運営部(K)】

列車を降りて駅ビルの外に出ると、見慣れた超高層ビルがあちこちにみえます。ほんの少し前まで相鉄の駅にいたのにもう新宿かと思うと、ちょっと不思議な気分になりました。